施主:堀田尚亨
施工:々(noma)
大工:野崎将太,樋口侑美,上村一暁,山本ジョージ,大木脩,たじまこうき
左官:八田人造石
電気:武藤頼次郎
金物:tuareg
什器:2M26,sklo
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(加筆修正中)
概要:
既存建物の資質(敷地の状況、築年数、構造、等)や、プロジェクトに関わる複数の主体(施主、設計者、施工者、その他の介入者等)の行動、それにより起こる事象を、創作される建築の自意識を形成するための要素として捉える。設計者として、それらの諸要素と対等な、対話的立場をとり、その過程で形成される建築の自意識を、できるだけ複数の視点から発見し、描写するように設計することを試みている。
創作される建築はあくまで自立した存在として捉え、所有者である施主の意向や、設計者が予め描いた全体像を具現化するわけではない。創作過程の'現在'において、現場で起こっている対話や事象から形成される建築の自意識を発見し、それに応えるように部分を創っていくことで、全体が立ち現れるようなプロセスを目指す。
詳細:
初めて施主のなおみちさんに会った時、彼が所有する3階建て鉄骨造の住宅をレストランに改修したいと言われた。
さっそく食べさせてもらった彼の料理は抜群に美味しく、今まで世界中の料理を食べてきた経験が料理の独創性を際立たせていたが、彼は私たちに、店の具体的なイメージをほとんど語らず、舵を取りやすい施主である自分が、あまり明確なビジョンや要望を提示せずに、設計者や施工者と対等にゼロから考えたいという態度をだった。
なおみちさんには、飲食店のオーナーの経験も、飲食店で勤めた経験もなかったから、単純にどうしたらいいかわからなかっただけかもしれない。
私に設計しないかと話を持ちかけてくれたのは、ノマという施工集団を率いるしょうきちさんだ。ノマは、頭としてしょうきちさんは常にいるものの、プロジェクトや時期ごとに、個人として独立したメンバーが集う流動的なチームだ。ノマのメンバーは、しょうきちさんを始め、個々人がプロジェクトに対しての考えや意思をその都度しっかりと提示してきた。
私も、複数の人間が集まり、時間をかけてつくる建築を、施主の要望を元に設計者が事前に図面を引いて指示を出しその通りに施工者が施工する、予定調和的なプロセスを正としがちな現場には、葛藤があった。
そこで、このプロジェクトに関わる複数の主体の声を、初めから融合させることを目的とはせず、自立した複数の主体の対話及びそこで起こる事象に応えるように、施工と同時並行的に設計することを試みた。
つまり、所有者である施主の意向や、設計者が予め描く全体像等を具現化するのではなく、創作過程の'現在'において起こっている対話や事象に応えるように、部分を設計→施工することの繰り返しで全体が立ち現れるプロセスを目指した。
詳細図以外の図面は、その場で現場の状況や、施主や施工チームとのやり取りを反映できるよう、鉛筆で描き進め、工事と並行して図面やスケッチを増やしていった。
路地に面したファサードは、路地の突き当りにある建物立地を活かす、狭小な内部を開放的にする、住宅から店舗へと面様を変える、これらの目的を共有した上で、既存外壁を一面解体した。
それからは作業後に路地にはみ出して施主の料理を囲むことが日課となり、近隣のお店の人や友人たち、通りすがりの人が立ち寄るようになった。
誰もいない夜には近辺を縄張りとする猫がふらっと入ってきた。
この、路地とひと連なりの1階で施主が料理を振舞う風景を、形成された建築の自意識の一つと捉え、全開放できる回転建具や内部の仕様が決められていった。
このように、デザインになる前の、抽象度の高い目的のためのアクション(既存建物の解体等)を行い、その状態で起こる対話や事象を観察し、創作される建築の自意識を発見し、設計、施工することを繰り返した。
雑記: