用途:住宅
種別:改修(部分)
所在:兵庫県
竣工:2021年12月
構造:鉄筋コンクリート造(既存)
設計:カンミレ
アクションリサーチ:菅野圭祐
施工: omusubi design/内田博樹
(大工:木村工務店、電気:穴吹電工、水道:寺坂設備、タイル:大清工業、塗装:高野塗装)
家具設計・製作:大川家具製作所
金物製作:tuareg
協力:樋口侑美(家具製作)
撮影:岡田和幸
a/normally
概要:
施主が長年暮らしたマンション一室の改修計画。日常が僅かに変調する時、それに寄り添うように空間を分節したり接続したりする間仕切りの新設と、それを境に隣り合う各部屋の設備更新を含む改修を行った。
詳細:
施主が長年暮らしたマンション一室の改修計画。主な要望は、老後に備えてロフトへの行き来がしやすくなるよう、既存の折りたたみ式階段を撤去して昇り降りしやすい階段を新たに設けることと、老朽化した設備を更新することの2つだった。改修範囲は必要な箇所のみに絞り、長年積み重ねた施主の暮らしが改修後も途切れず続く計画を目指した。
普段一人で暮らす施主は、下層の、玄関・洗面所・リビングダイニングの各部屋を仕切る建具を開け放し、くるくると回遊できる生活動線で暮らしていた。施主にとって、ロフトへの階段や建具は、パートナーの滞在時や来客時など、普段の生活が少し変調する時、それに合わせて空間を広げたり仕切ったりするためのものだった。
また、改修前のリビングダイニングは、可愛らしい雑貨の数々、レコードやカセットなど、愛着のつまった多くの物で囲まれていた。それらが雑多に置かれた空間は、施主がこの部屋で積み重ねてきた時間が自ずと伝わってくるような魅力があった。今回の改修で階段を新設することができるのは、上部が吹き抜けている、このリビングダイニングに限られ、部屋の有効面積がさらに小さくなってしまうことが課題となった。
そこで、施主の住み慣れた生活動線や、愛着のつまった物に囲まれた雰囲気を継承しつつ、なるべく空間を狭めない提案として、聴きたい時に取り出すレコードと同じように、ロフトへ上がりたい時に引き出す階段、たくさんの雑貨類と階段が一緒に仕舞われる棚、そして必要な時に部屋を仕切ることができる建具が、一体となった間仕切りを製作した。
それは、現在そしてこれからの施主の暮らしに、柔軟に寄り添う間仕切りであると同時に、施主がこの部屋で暮らしてきた長い時間を、部屋の風景に留めている。
雑記:
引き渡し後しばらくして、竣工写真を撮りに伺ったのは、ちょうどクリスマスの時期だった。季節を意識してそれとなく飾られている赤や緑の小物と、改修前から変わらずある、過去に訪れた美術館のチケットをストックしているコルクボードや可愛らしい時計のオブジェが、改修後新設された棚に並んでいた。ロフトの窓越しに見える天使の羽も、よく見覚えのあるものだった。アールがかった低いロフト天井の表情が際立つように照明が吊り下げられたり置いてあったりした。
それらを見て嬉しいのは、改修後の部屋と施主との間に、私が設計段階で意図できるはずのなかった物語がいくつも生まれていると感じられるからだと思う。
自分との間に物語を紡げる対象に対して人は愛着を持つということを改めて感じた。
当事者ではない設計者は全ての物語を描き切ることはできないし、設計者に描かれた物語はフィクションでしかない。設計者にできるのは観察すること、そしてそれを記録すること、それらを土台として、使い手が主体的に物語を紡ぐことができる対象をつくることだと思う。
©kanmire
©sashio takahiro